メニエール病の特徴的内耳病変として内リンパ水腫は周知の事実であり、近年、臨床的にメニエル病をはじめとする内リンパ水腫症患群では内分泌学的に血漿ADH(vasopressin)が有意に高値を示すことが報告されている。ADHは腎の集合細胞に作用しc-AMPを介して水の透過性を亢進し水分を保持する機能を有するが、最近の報告では、蝸牛にもADH感受性のchannelが存在し、内・外リンパ液の保持に作用しているといわれている。この場合、ADHが過剰になれば内リンパ水腫の状態に移行することが予想される。また、別の実験でADHは侵害刺激などのストレス負荷により、分泌が上昇することが動物モデルで証明されており、ストレスにより引き起こされる内リンパ水腫の増悪はADHを介して生じている可能性がある。 実験では、Kimura法に準じて手術的に内リンパ水腫動物(モルモット)を作成し、侵害刺激(急性の痛み刺激)によるストレス負荷を行う群と、ストレス負荷を行わないコントロール群にわけ毎日行動観察を行い、めまい発作が生じるか否かを検討した。さらに1週間ごとに1)血漿ADHの測定、2)-SP/APの測定、3)AP測定により聴力閾値の推定、4)蝸牛摘出標本により組織学的な内リンパ水腫の変化の観察、を8週間まで行った。これらにより、ストレス負荷により、血漿ADH値の上昇と内リンパ水腫の変化に相関がみられるか否かの検討を試みた。
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