まず、ヒト胎児内耳の発生段階における各種成長因子及びそのレセプターについて、免疫組織学的に検討した。その結果、EGF、TGF-alphaの存在を内耳感覚上皮内に認めた。また、EGFレセプターを同じく内耳感覚上皮内に認めた。これらの存在は、発生早期に認められ発生とともに認められなくなった。このことより、内耳感覚上皮の細胞増殖や初期の細胞の分化に関与していることが示唆された。一方、PDGFやFGFのレセプターは、内耳上皮の成熟段階においても認められ、これらの成長因子は、感覚細胞の分化に関与していることが示唆された。 さらに、成熟哺乳動物における内耳障害の修復過程において、発生段階において認められた成長因子が関与しているかどうかについて検討した。硫酸ストレプトマイシンにより内耳障害マウスを作成した。障害マウスの卵形嚢を摘出し、whole mountでEGFの局在を組織学的に同定した。その結果、コントロールにおいては、EGFはほとんど認めなかったのに対し、内耳障害マウスでは卵形嚢の感覚上皮内にEGFの出現を認めた。このことは、内耳の修復過程において成長因子の関与を示唆するものである。 また、現在in situ hybridization法を用いて、内耳障害マウスにおける種々の成長因子レセプターのmRNAの出現について検討している。その結果、内耳感覚上皮における障害の修復過程においてさまざまな成長因子の関与が明かになりつつあり、臨床応用の可能性についても検討していく所存である。
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