生体にはその恒常性を維持するために、侵入してきた外来異物を非特異的に排除しようとする防御機構が備わっている。内耳に関しては、様々な原因不明な疾患に関して、ウィルス感染が想定、重要視されている。これまでいくつかのウィルスで実験動物によるウィルス内耳感染モデルが作成され、形態学的に内耳病変の検討が行われているが、ウィルス感染に対する初期防御機構についての詳細な報告はこれまでのところ見受けられない。ウィルス感染に対する初期防御機構は、NK細胞が中心的な役割を果たしている。今回の研究では、NK細胞が内耳における病原性異物侵入に対してどのように対処するかということに注目して研究を行った。その結果、NK細胞はこれまでのウイルス内耳感染モデルでの結果と同様に、全身の血管系より供給され、病原性異物に対処することはするものの、その出現は初期防御機構の発達している他の組織より時間的にかなり遅れ、積極的な防御機構出現時には、聴覚機能に非常に重要な役割を果たすコルチ器および血管条は形態学的に著しく傷害されていることが判明した。すなわち、著明な感音性難聴がおこっているものと推測された。今回の結果より、内耳に病原性異物感染が加わった場合、それに対処する内耳の初期防御機構は強いものではなく、異物処理機構の出現時にはすでに内耳機能が障害された状態であることが判明した。今後は、内耳に定着性の異物認識細胞の有無の検討を含め、もしそれらが存在した場合、何らかの形でその機能が増強できるものかなども検討していきたいと考えている。
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