MRL/lprマウスは加齢とともに免疫異常を発現し、生後20週令から感音難聴が生じることが報告されており、かつ難聴が発現したマウスの蝸牛では血管条の変性とIgGの沈着が認められるとされている。本年度の研究では、クリック音刺激によるABRを用いてこの聴力閾値の経時的変化について検討したが、現時点まで明らかな聴力閾値の上昇は認められていない。一方、組織学的検討では、抗マウス免疫グロブリンによる免疫染色で、蝸牛血管条にIgGの沈着が認められたことから、免疫複合体が血管壁周囲に存在することは明らかであると考えられるが、明らかに血管炎の像を示したものは認められなかった。従って、単に免疫複合体が血管壁に沈着するだけでは血管炎による蝸牛機能障害が生じることはなく、別の新たな刺激が加わることで障害が生じる可能性があると考えられた。今後は引き続き、血管条細胞におけるICAM-1の成長に伴う変化について検討するとともに、インターロイキン1(IL-1)、腫瘍壊死因子(TNF-α)、γ-インターフェロン(γ-INF)等の炎症性サイトカインをMRL/lprマウスおよびBALA/cマウスの蝸牛において外リンパ潅流することにより、ICAM-1の発現に変化が生じるか否かについても、免疫染色、western blotting法を用いて検討し、これら炎症性サイトカインが血管炎を生じさせることで、蝸牛機能の変化を誘発する刺激となり得るか否かについて明らかにしたいと考えている。
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