中耳真珠腫上皮の増殖機序を調べるため主に増殖因子、サイトカインの発現について研究した。さらに上皮細胞の増殖、分化、細胞死のバランスをとらえるため上皮細胞のアポトーシスについても検討を行った。対象には中耳真珠腫例に摘出した真珠腫標本および外耳道皮膚を用いた。 1.真珠腫上皮におけるKGF-Receptor mRNAの検出:KGF Receptorに特異的なoligonuckeotide probeを作成し、in situ hybridization法とRT-PCR法を行い、組織上におけるmRNAの局在と、組織におけるmRNAを検出した。結果、真珠腫上皮においてKGF-mRNAの発現の亢進が認められた。TGF-α mRNAは上皮下の炎症の強い真珠腫上皮で発現の亢進が見られ、さらにTGF-αとPCNAの発現に相関関係が認められた。 2.真珠腫上皮の増殖能に関する研究:真珠腫上皮におけるPCNAの発現と局在を免疫組織学的に検索した。その結果、真珠腫上皮では上皮全層にわたるPCNA陽性細胞がみられ、基底層を離れた上層の細胞においても増殖能が亢進していることが示唆された。 3.真珠腫上皮におけるapoptotic cell deathの検出:真珠腫上皮においては増殖能が亢進していると思われるが、ケラチンデブリの異常堆積からも示唆されるように同時にapoptosisも増加していると思われる。真珠腫上皮におけるapoptotic cell deathを調べるためにパラフィン切片上で、apoptotic cellのDNA断片を検出した。結果、真珠腫上皮では基底層を除く全層にapoptotic cellが検出され、増殖能の亢進とともに細胞死も同時に誘導され、ケラチンデブリの異常堆積を生じるというメカニズムが示唆された。 4.真珠腫上皮におけるHuman papilloma virus(HPV)の検出:真珠腫における骨破壊、上皮の進展形式はpapilloma virus関連疾患といくつかの共通する特徴をもつ。また最近ではHPV感染細胞がアポトーシスを導くとの報告もなされており、真珠腫でもHPV感染がその発症、増殖機序に関わると思われ、RT-PVR法とin situ PCR法を用いてHPVの検出を試みた。結果、一部の症例でHPV type 11.16が検出された。
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