正常モルモットの蝸牛よりらせん神経節細胞を単離した。単離された細胞は、すでに報告されているのと同様に、細胞体に髄鞘を持ったType I と髄鞘を持たないType IIとが観察され、今回の実験では両者を用いた。単離されたらせん神経節細胞に100μMのATPを30秒間投与したところ、一過性の細胞内Ca^<2+>濃度の上昇反応が見られた。そしてこの反応は、再現性及び濃度依存的上昇反応を示した。また、ATPの受容体であるP_2-receptorのアンタゴニストであるReactive Blue 2 および Suramin の存在下では、ATP(100μM)による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇反応は濃度依存的に抑制された。これらのことより、らせん神経節細胞にはP_2-receptorが存在することが示唆された。次に、細胞外液をCa^<2+>-freeの状態にして100μMのATPを投与したところ、一過性の細胞内Ca^<2+>濃度の上昇反応が見られたが、その上昇度は、細胞外液にCa^<2+>の存在する状態に比べて低かった。このことより、ATPによる細胞内Ca^<2+>濃度の上昇反応におけるCa^<2+>の流入経路は、外部動員と内部動員の両方によることが示唆された。また種々のアゴニストの効力比では、ATP-γ-S>ATP>>α、β-Me-ATPの順となり、P_2-receptorのサブタイプはP_<2y>-receptorが優位であることが示唆された。以上の細胞外ATPによるらせん神経節細胞の反応より、内耳における細胞外のATPは、求心性の神経伝達物質としての役割を果たしている可能性が考えられた。
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