研究概要 |
1.正弦波状の垂直回転および視運動刺激に対する覚醒ネコ小脳片葉プルキンエ細胞の応答特性 垂直刺激に応答した38個のプルキンエ細胞のsimple-spike活動を得た.このうち,23個のpcellsについて視運動刺激を加えることができた.視運動刺激に応答した20個のうち,17個がeye velocityプルキンエ細胞様の応答を示した.こののうち,11個が上方の垂直回転および下方の視運動刺激時の下向き眼球運動に応答し,6個が下方の垂直回転および上方の視運動刺激時の上向き眼球運動に応答した.これら細胞の垂直回転応答の利得と視運動応答の利得の間には正の相関が認められた.プルキンエ細胞のほとんどは,垂直回転刺激および視運動刺激を加えている時の応答位相が,ほぼ刺激速度に対応するeye velocityプルキンエ細胞であった.これらは,前庭あるいは視運動刺激により引き起こされる眼球運動,特に速度成分に関係していることが示唆された. 2.覚醒ネコの小脳片葉の化学的不活性化による眼球運動障害 記録された片葉プルキンエ細胞の領域をGABA作動薬であるmuscimolの微量注入で不活性した際の眼球運動障害を,前庭動眼反射と視運動性眼球運動に分けて解析した.結果,(1)垂直回転刺激に応答した52個のプルキンエ細胞のうち,約70%が上向きの回転刺激時に発射が増え,細胞活動応答は眼球運動速度に応答した.(2)muscimolを注入後,垂直の回転刺激および視運動刺激時の下方への眼球運動が障害され,正常で起こる前庭動眼反射の位相遅れが減少した.(3)下方への衝動性眼球運動後の眼位保持ができず,上向きpostsaccadic driftを認めた.以上より,上向きの回転刺激に応答した領域へのmuscimol注入によって生じた下転障害は,上向きdriftだけでは説明がつかなかった.このことは,小脳片葉が,前庭動眼反射における眼球運動信号の時間的信号変換に関わることを示唆していた.本研究で使用したネコでは視運動刺激を行うことが困難であったため,現在類似の視覚課題を覚醒サルにて準備中である.
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