網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素は、視サイクルに関与する酵素の一つであり、本酵素の突然変異は、ロドプシン遺伝子の突然変異と同様に網膜色素変性症の原因となる可能性があると考えられる。 我々は、バクテリオファージベクターUNIZAPで作製されたウシ網膜cDNAライブラリーの抗ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素抗体によるスクリーニングを行い、昨年度の科学研究費の補助を受けて、ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素cDNAクローンを単離し、ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素cDNAの分離及び塩基配列の決定を行った。 今回、突然変異による網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素の活性の変化を解析し、その機能部位を明らかにする目的で、まず正常ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素cDNAの翻訳領域をpSVL発現ベクターに組み込み、COS7細胞に、リポソームを用いて導入し、培養した。ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素の発現を確認するために、抗ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素を用いて免疫染色を行ったが、導入細胞は抗体によって認識されなかった。そこで、ウシ網膜色素上皮特異的レチノール脱水素酵素cDNAとそのアミノ酸配列とが一致するかどうかの確認作業を行った。アミノ酸配列の決定のためには、ウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素の精製が必要である。しかしながら、DEAEセファロース、ハイドロキシアパタイトを用いたゲルクロマトグラフィーを用いて行った蛋白精製は極めて困難であり、アミノ酸配列の決定に用いることはできなかった。現在、部分精製したウシ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素をエンドペプチダーゼで消化し、抗体に認識される部位のみのアミノ酸配列の決定を試みている。 また同時に最終的な目的のひとつである突然変異による網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素の活性の変化の解析を行うための実験系を確立することが必要であった。そこで、われわれがすでに作製してあった、網膜光受容細胞特異的レチノール脱水素酵素を発現ベクターに組み込み、リボソームを用いてネオマイシン耐性遺伝子と共にCHO細胞に導入し、スクリーニングによって恒常的に酵素を発現するようになった細胞を用いて、酵素活性が測定可能であるかどうかの検討を行った。その結果、活性の測定は、恒常的に発現する細胞を大量培養し、マイクロゾーム分画を分離し、HPLCを用いて反応産物を測定することによって、可能であると考えられた。 部位特異的突然変異を持つ網膜色素上皮細胞特異的レチノール脱水素酵素の発現ベクターへの組み込みと、その活性の変化の解析は、この報告書を書く時点では未だ進行中である。
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