研究代表者は、正常水晶体胞分離および臨床的にPeters'奇形に相当する水晶体胞分離不全成立機序を、その鍵となる物質を検索する目的で検討した。胎生期のJcl:ICRマウスを用い、正常水晶体胞分離過程と実験奇形学的に発生させた水晶体胞分離不全の成立過程を組織学的および組織科学的に検討した。 水晶体胞分離過程で角膜上皮基底膜および同基底膜と水晶体胞との間質にはコンドロイチン硫酸A/CとBが存在し、水晶体胞分離後には角膜上皮基底膜にヘパラン硫酸が出現した。水晶体茎および水晶体嚢にはコンドロイチン硫酸A/Cが存在したがヘパラン硫酸は存在しなかった。この結果、水晶体胞分離にはコンドロイチン硫酸異性体の細胞接着阻害作用とヘパラン硫酸の神経堤細胞遊走や細胞接着促進作用が、複雑に相互作用していると考えられた。 また、水晶体胞分離不全では角膜上皮基底膜および同基底膜と水晶体胞との間の間質にはコンドロイチン硫酸A/CとB、水晶体茎および水晶体嚢にはコンドロイチン硫酸A/Cが存在した。また、これらの構造にはヘパラン硫酸がなく、正常水晶体胞分離前のグリコサミノグリカン分子種の分布様式と同様であったが、眼杯内板のコンドロイチン硫酸A/Cは正常と比べて著しく少なかった。以上より、水晶体胞分離不全の成立に眼杯内板の異常が関与していると考えられた。
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