研究概要 |
グラム陰性通性嫌気性菌であるActinobacillus actinomycetemcomitansは,若年性歯周炎患者の病巣部位から分離され,ヒト好中球および単球を特異的に傷害する蛋白毒素(白血球毒素)を生産することから歯周病の成立に重要な役割を果たすと考えられている。この白血球毒素は,大腸菌のヘモリジンに代表されるRTX毒素ファミリーに属し,この毒素ファミリーの共通した細胞障害機序として標的細胞の細胞膜に対するpore形成が知られている。本菌の白血球毒素についてもpore形成活性が指摘されており,最近,この毒素によって標的細胞内の特定蛋白質リン酸化が亢進することが報告され,この結果は,毒素による細胞障害が細胞膜へのpore形成だけでなく蛋白質リン酸化を介した細胞内情報伝達系とも関わることを推察させるものである。 本年度の研究では,A.actinomycetemcomitans白血球毒素における蛋白質リン酸化の亢進をもたらす機能領域を同定するために,以下の点について検討した。 1)白血球毒素遺伝子(lktA)のDNA塩基配列の決定:現在,lktAの5'末端からの約1.5kbのシークエンスを決定した。現在,残りの2.5kbを分析中である。また,lktAについての種々のディリーションミュータントを調製し,発現蛋白のリン酸化亢進活性を測定して,活性部位を検討している。 2)白血球毒素蛋白自己リン酸化部位の同定:白血球毒素蛋白は自己リン酸化されている結果が得られたので,リン酸化部位の同定をHPLC-質量分析計で検討した。毒素蛋白のトリプシン消化物をHPLC-質量分析計で分画・測定し,DNAシークエンスのデータと比較しながら,リン酸化されたアミノ酸を含むペプチド断片を同定・解析中である。
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