研究概要 |
生体で普遍的に捉える免疫反応ならびに細胞増殖を検索対象とし、歯髄が周囲を硬組織で囲まれているという特殊性を考慮にいれ、硬組織の崩壊すなわち齲触の進行にともなう生体防御反応の特徴を明らかにする事を目的とした。まず、免疫関与細胞の動態を免疫組織化学的に検索した。検索結果より、浅在性齲触ではT細胞を主体とした細胞性免疫反応が、深在性齲触では特にhelper T細胞とB細胞が急激に増加しB細胞および形質細胞による液性免疫反応が局所歯髄で生じていた。すなわち、齲触の進行程度に応じて高度に発達した局所免疫機構を備えていると結論づけられた。さらに、ヒト歯髄の修復機構を検索するため歯髄細胞の増殖能をPCNA免疫染色およびAgNOR染色により判定した。検索結果より浅在性齲触の段階ですでに代謝活性の増大を認め、齲触の進行に伴い段階的に増加していた。また、歯髄細胞の増殖能は齲触がかなり進行した段階において増殖を示す事が明らかになった。近年、細胞増殖の本質的機構である細胞周期においてp53が、サイクリン依存性プロテインキナーゼの阻害蛋白質の発現を誘導することによって、細胞増殖をG1期で停止させることが証明された(Evans,T.,et al.:Cell,1983)。これより、p53が歯髄細胞の増殖制御に密接な関係を有していることが十分に予想し得る。今後、歯髄細胞の増殖能を制御しているこれらの因子を検索することにより、齲触晩期における生体防御反応として歯髄細胞の増殖能がなぜ発現するのか病理学的に解明していく。さらに、これらのヒト齲触歯髄の生体防御反応の結果をもとに、修復象牙質形成に関与していると考えられる骨形成蛋白遺伝子発現との関わりをも検索していく。
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