ラット第一臼歯歯胚を材料とし、enamel free areaの内エナメル上皮(EFA)の萠出までの細胞動態について、形態的には透過電顕を、細胞の分化と機能の発現については抗サイトケラチン抗体と抗アメロジェニン抗体を用いて検索を行い、以下の成績を得た。 1. EFA上皮は萠出に至るまでに次の段階を経ることが明らかとなった。 (1)分化期エナメル芽細胞様ステージ:細胞は立方形から低円柱形を示し、一部の細胞では極性が認められる。ミトコンドリアが豊富となり、粗面小胞体やゴルジ体も発達している。この時期にアメロジェニンを含むエネメル基質様基質が分泌される。基質中にはstippled materialに連続してエナメル結晶様の結晶が存在する。 (2)成熟期エナメル芽細胞様ステージ:細胞遠心には刷子縁が発達し、ライソゾームや取り込み小胞が多数存在する。細胞遠心ではギャップ結合によって隣接細胞と密接しているが、細胞中央部には細胞間隙が見られる。この時期に基質の吸収が行われる。 (3)結合エナメル上皮様ステージ:細胞は低円柱形から立方形ないし扁平形となる。隣接細胞とはデスモゾームによって結合している。核は不定形を呈し、分葉したものが多く存在する。細胞内にはトノフィラメントが増加している。 2. EFA上皮の抗サイトケラチン抗体に対する反応は、分化期エナメル芽細胞様ステージから始まり、以後ステージを追うにつれて口腔粘膜上皮に強い反応を示した。一方、エナメル芽細胞では、分化期と形成期では反応が見られず、成熟期以降に反応が観察された。以上のことから、細胞機能の発現には、細胞骨格蛋白の発現や分布状況が強く影響を与えていることが示唆された。
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