研究概要 |
プラーク中の歯肉アメーバEntamoeba gingivalisをPCR法により特異的に検出するシステムを開発するため,以下の実験を行った.Entamoeba gingivalis ATCC30927株,ATCC30928株のSrRNA遺伝子の塩基配列と既報の近縁真核生物や真菌のそれらとをコンピューターを用いて比較し,歯肉アメーバに特異的と考えられる配列を見いだして,1対のPCR用プライマーを設計・合成した.PCRの条件は,熱変性94℃,1分,アニーリング60℃,1分,伸長反応72℃,1分を1サイクルとし,これを40サイクル行い,設計したプライマーを用いて,PCRを行ったところ,歯肉アメーバ由来の精製DNAからのみ特異的に,約1.4kbのPCR産物が得られた.近縁の原虫,口腔内の原虫・真菌・細菌,ヒト白血球由来の精製DNAからは,増幅産物が認められなかった.熱処理とクロロホルム処理から得られた粗DNA抽出物を鋳型として用い,PCRを行ったところ,約20コの歯肉アメーバ細胞がPCR反応液中に存在していれば,確実に検出できた.又,歯周秒患者の縁下プラークから,歯肉アメーバ特異的なPCR産物が得られ,プラーク中の歯肉アメーバも同様に,直接検出可能であった. 今回,歯肉アメーバのSrRNA遺伝子の可変領域の塩基配列をもとにPCRプライマーを設計し,歯肉アメーバの同定,検出報を確立した.このPCR法の主な利点は,特に熟練した技術を必要とすることもなく,簡易で,迅速に,口腔内の歯肉アメーバを同定・検出できることである.歯周組織の微生物叢は,非常に複雑であり,これらの多くは,まだ正確に報告されていない.特に,原虫は細菌と違って分離が難しく,見落とされがちである.今回の検出法は,ヒト口腔内における歯肉アメーバの疫学的解析,口腔疾患との関わりを解明する手段の一つとして応用できると考えられる.
|