骨髄細胞の分化誘導機構の解明は、免疫系の理解のみならず血液ガンに対する分化療法開発のために必須である。しかしながら、これまでの研究では、分化誘導能を持つ物質についていくつか発見されたものの、未だ実際の複雑な分化は説明できなかった。しかし、最近、分化誘導能を持つ物質を複数組み合わせることにより、その分化誘導能が飛躍的に高まる場合があることが見い出された。我々は、過去ビタミンD3を用いた破骨細胞の分化誘導を研究していく中で、ビタミンD3がマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)あるいはマクロファージ/顆粒球コロニー刺激因子(GM-CSF)の分化誘導能を高めることを見い出した。しかも興味深いことには、ビタミンD3は骨髄未分化細胞からマクロファージ方向への分化を誘導する物質であると従来認識されているが、各種コロニー刺激因子の存在下では処理方法により顆粒球方向への分化をも誘導することが明らかとなり、あたかも分化方向をスイッチングしているような所見が得られた。そこで、本年度の研究は、ビタミンD3と残り1つのコロニー刺激因子である顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の相互作用を明らかにし、これまでの研究と併せて統括するとともに、分化誘導物質の相互作用という観点の可能性を検討した。 マウス未分化骨髄細胞を材料としたG-CSFまたはビタミンD3処理は、それぞれクロロアセテートエステラーゼ及びノンスペシフィックエステラーゼの発現を引き起こしたが、その同時処理は両方のエステラーゼについて飛躍的な発現をもたらした。同様にこれら同時処理は、テトラゾリウム還元能を著変させなかったものの、Mac-1表面抗原の発現について、また貧食能を有する細胞の割合には著しい上昇をもたらした。形態的には、大型球形細胞ならびに不定形接着性細胞の同時多数出現が認められた。これらの所見は、G-CSF及びビタミンD3は単独ではそれぞれ顆粒球方向、マクロファージ方向に分化誘導するが、それら組み合わせ処理は、両方の方向にしかも強力に分化誘導することを示唆するものである。このことは、別の方向へ分化誘導するべき物質同士が相乗作用を現すことを見い出した点において画期的である。 CSFとビタミンD3の相互作用を総じて、分化誘導方向について複雑に調節しあっていることが認められ、さらにどの場合でも作用力において相乗的であった。この結果は分化誘導機構研究の一助となるが、さらに、作用点の詳細な解明ならびに他多種の分化誘導物質との相互作用の研究が今後求められる。
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