1.大脳皮質咀嚼野(咀嚼野)と呼ばれている領域に連続電気刺激を与えると顎と舌のリズミカルな協調運動を引き起こすことができる。この領域の出力の機能的な意義は未だ十分には明らかにされていない。そこで、本研究では自然咀嚼時の咀嚼野出力細胞を記録し、その特性を調べ、咀嚼野からの出力が食物咀嚼中にどのように働いているか、また感覚入力がどのような影響をおよぼしているかを明らかにすることを目的とした。 2.実験には、大脳皮質誘発性のリズミカルな顎運動が解明されているウサギを用い、自然咀嚼中のニューロンの活動を記録するために、無麻酔下で咀嚼筋筋電図活動と顎運動を記録することのできる慢性動物を作製した。頭蓋骨大脳皮質咀嚼野相当部に慢性記録用チャンバーを、また、下行性出力細胞を逆行性に同定するために、大脳脚部に刺激電極を固定した。手術侵襲から回復の後、無麻酔下で咀嚼野から単一ニューロン活動を記録し、逆行性刺激により下行性出力細胞か否か、またどのような感覚入力を受けているかを同定した上で、咀嚼中の活動様式を筋電図および顎運動と同時に記録した。 3.咀嚼運動中の皮質ニューロンの活動様式には、(1)食物を口腔内に挿入後、臼歯部での咀嚼に移行するまでに一過性の活動を示すもの、(2)咀嚼サイクルに一致したリズミカルな活動を示すもの、(3)咀嚼運動中活動が増大するもの、が認められた。(2)の活動を示すものはすべて顎口腔領域に受容野を持っていたが、(1)および(3)の活動を示すもので受容野をもっているものは少なかった。下行性出力細胞では(1)の活動を示すものが最も多く、次いで(3)の活動を示すものが多かった。しかし、(2)の活動を示すものは記録されなかった。下行性出力細胞と同定されなかった細胞では、(2)の活動を示すものが最も多く、次いで(1)、(3)の順であった。 4.これらの結果から下行性出力細胞は感覚入力を受けるものが少なく、咀嚼の開始あるいは咀嚼の連続性に強く関係しており、各咀嚼サイクルにおける微妙な運動のコントロールには強く関与していないことが示唆された。
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