トリプシンとコラゲナーゼ処理により得られた耳下腺細胞を実験に用いた。 1.細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)及びイノシトールリン脂質代謝に対するATPの効果 10μMから1mMまでのATPは、外液Ca^<2+>の存在下で濃度依存的に[Ca^<2+>]iを上昇させた。一方、Ca^<2+>-free液中ではCa^<2+>の上昇は著しく減弱した事から、ATPによるCa^<2+>の上昇が、主に細胞外からのCa^<2+>流入による事が示唆された。ATPの他にADPが弱いCa^<2+>の上昇作用を有していたが、AMPやアデノシンは無効果であった。ATP(1mM)によって起こるイノシトール三リン酸(IP_3)の生成はムスカリン受容体刺激(カルバコール10μM)に比較して極わずかであった事から(約15%)、ATPによるCa^<2+>上昇におけるイノシトールリン脂質代謝の関与は小さいと考えられた。このATPの作用はP_<2Z>受容体を介するものと考えられた。 一方、ATP(100μM)はカルバコール(10μM)による細胞内ストアからのCa^<2+>放出及びIP_3生成を強く抑制した。ATPのムスカリン受容体刺激の抑制機構は今の所不明だが、ATPがいろいろな細胞内情報伝達機構の調節に関与している可能性が考えられた。 アミラーゼ分泌及びK^+放出に対するATPの効果 ATPは細胞内から著しいK^+放出を起こした。この反応は、細胞外Ca^<2+>を除去しても見られたことから、Ca^<2+>依存性の反応では内と考えられた。一方、アミラーゼ分泌は1mMまでのATPでほとんど刺激されなかった。 本研究でATPは、細胞内情報伝達系のモジュレーションあるいはイオン・チャンネルに対する直接作用によって水・電解質分泌に関与する可能性が示唆された。
|