研究概要 |
S. mutansの糖代謝において、特に歯垢深部の様な高度の嫌気的条件下では、ラジカル酵素であるピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)がNAD/NADHバランスに重要な役割をはたしている。申請者らはS. mutansの染色体DNAにランダム変異を導入し、大腸菌以外では未だクローニングされていなかったピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子(pfl)をクローニングし、その全塩基配列の決定(S. mutansのpflは塩基数2.325kbで、コードされているアミノ酸残基数は775、分子量は87, 533Daであった。Yamamoto, Y., et al., 1996, Infect. Immun., vol. 64 : 385-391)とこの遺伝子の上流域および下流域の塩基配列の解析を行った。S. mutansのpflは、大腸菌のpflがこの酵素の活性化酵素遺伝子(act)と供に近接して存在し、ArcAやFNRらのタンパク質によってその嫌気的条件下での誘導が制御されているのに対し、申請者らによるこの遺伝子の上流域および下流域の塩基配列解析の結果(pflの上流域には0.6kb異常のORFを、下流域にも約1.7kbのORFの存在を確認し、これらの領域の挿入失活変異株をつくり糖アルコール代謝性への影響を検討したが、大きな変化は確認できなかった。)から単独で存在することが示唆され、また本菌のように呼吸鎖を持たない菌ではFNRタンパク質は存在しないとされる等の理由から、大腸菌のそれとは明らかに異なった発現調節を受けているものと考えられた。 さらに申請者は、pflの発現がS. mutans内で容易にモニターできる融合遺伝子を作成し、種々の発酵条件下におけるpflの発現調節機構を明らかにしようと考え、大腸菌において融合遺伝子(pfl :: lacZ, S. mutansにはβ-ガラクトシダーゼが存在しない)を構築している。
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