歯周炎の進行過程は、歯肉内縁上皮および接合上皮の破壊により開始される。また治癒過程でも上皮および結合組織と歯との付着は重要な因子となっている。現在内縁上皮や接合上皮の検索は、その多くがin vivoで行われているが、多くの因子が関与するため、結合組織性及び上皮性付着の破壊および形成過程を経時的に観察するのは困難である。そこで、ヒト抜去歯歯根膜および周囲歯肉を用いて線維芽細胞様細胞および上皮細胞を継代培養し、両者を積層して、炎症の有無による形態学的差異を検索するのを目的とした。 【材料及び方法】歯科臨床より得られた24歳、女性の抜去歯及び周辺歯肉を用いた。 (1)歯根膜線維芽細胞様細胞の培養:抜去歯歯根表面中央部から歯根膜線維を採取した。ダルベッコ変法イ-グル培地に10%牛胎児血清を加え、抗生物質として初代培養ではカナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ジフルカンを、継代培養ではカナマイシンを添加し、CO^2濃度5%、湿度100%、温度37℃で培養し、継代培養を行った。 (2)歯肉結合組織の培養:歯肉結合組織を採取し、1mm角の大きさに細断し、(1)と同様に、培養し、継代した。 (3)歯肉上皮細胞の培養:歯肉組織から、結合組織を可及的に除去し、上皮組織を細断し、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ジフルカンを抗生物質として加えたPBSにて、洗浄。その後0.1%トリプシン含有Earle′s balanced salts溶液に浸涜し、上皮部を分離して、(1)と同様の条件で培養し、継代した。 (4)コラーゲン(Cellmatrix Type I-A)に、ダルベッコ変法イ-グル培地を加え、さらにNaOH、NaHCO^3を加え、コラーゲン・ゲルを調整した。細胞含有用コラーゲン・ゲルではさらに10%牛胎児血清を加えた。ダブルチャンバー法による培養を行い、内側チャンバーの下層にbasal layerとして細胞非含有コラーゲンを分注し、その上部に(1)の培養線維芽細胞様細胞と細胞含有用コラーゲン・ゲルを積層した。インキュベータ-内でゲルを硬化させた後、表層に(3)の培養上皮細胞を播種し、内外側チャンバーに牛胎児血清添加ダルベッコ変法イ-グル培地を加え、培養した。その後、内側チャンバーのイ-グル培地を除去し、上皮部分のみ空気中に暴露させた。 【結果及び展望】現在、方法(4)における、コラーゲン・ゲルの構成及び内側チャンバーのイ-グル培地除去までの期間について検討中である。今後、さらにゲル中に抜去歯根部の植立も行い、三次元的なヒト歯周組織類似のモデル作成を行う予定である。また辺縁性歯周炎に罹患した歯根膜由来の線維芽細胞様細胞も用いてモデル作成し、その差異について検討する。とくに歯根と上皮細胞、上皮細胞と線維芽細胞様細胞との関連性について、細胞増殖能(AgNORs法およびPCNA法による)と超微細構造を中心に観察する。これらの検索は歯周炎における細胞付着や遊走機構の解明の上で役立つと考えられる。
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