研究概要 |
歯周病関連菌の宿主への付着は,歯周疾患の発症の第一のステップと考えられている。申請者は,歯周病関連の紡錘菌に着目し,その歯肉溝あるいは歯周ポケット局所での病原性を,細菌,特にFusobacterium nucleatumなどの他の細菌の代謝産物に栄養源を求めているBacteroides forsythusを宿主細胞との相互作用の観点から検討し,以下の知見を得た。 1)F. nucleatumのL-Arginine感受性赤血球凝集素(A-HA)に対する抗体を用いたELISA法による検討の結果,この菌の液体培地と寒天平板培地での培養による赤血球凝集の差は,菌体の疎水性や静電価などの非特異的因子の変化によるものではなく,A-HAなど特異的因子の変化によるものである可能性が示唆された。 2)B.forsythus19菌株を用いてヒト細胞への付着を検討したところ,この菌のヒト細胞への付着には複数の因子が関与しており,ヒト細胞の酵素処理により付着が変化していることが明らかになった。このことから,この菌が有する多種の酵素により宿主細胞を修飾し,付着に有利な条件を作っていることが示唆された。 3)B.forsythus3菌株を用いて,ウサギ背部皮下での膿瘍形成能について検討したところ,B.forsythus単独ではごく短期間で菌体が排除されたが,F. nucleatumやPorphyromonas gingivalisと同時に移植したものは,長時間菌が生存し,場合によっては,2週間後に膿瘍形成をするものも観察された。 以上の結果より,歯周病関連の紡錘菌は、それ自身,複雑な付着機構を有して宿主に付着し,定着していること,また,その宿主防御に対向して生存し,病原性を発揮するために,他種の紡錘菌や,それ以外の菌と共生している可能性があることが示唆された。
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