副甲状腺ホルモン(PTH)は、細胞膜上のPTH受容体と結合後、主として2つの情報伝達系、PKA経路とPKC経路を介してその作用が伝達される。骨芽細胞においても同様なことが報告されているが、骨芽細胞の分化過程でPTHが作用する場合、これら2つの伝達系が常に活性化されるのか、それとも細胞分化に応じてどちらかが選択的に活性化され、作用発現に関与するのかは不明である。今回、骨芽細胞分化の研究に有用な系であるラット胎児頭蓋冠由来の骨原性細胞を用いて、情報伝達系の変動、情報伝達系間のクロストークおよび情報伝達系とPTHの作用との関係について検索し、以下の結論を得た。1)PTH受容体の発現は、細胞増殖期にすでに認められる。2)PTH添加によるcAMP産生は培養後期になって初めて認められ、培養前期には認められない。すなわち、受容体数とPKA経路活性化の間にディスクレパンシーが存在する。3)PTH添加によるイノシトール3リン産生は、細胞増殖期から認められ、産生量はPTH受容体数と比例関係にある。4)PTH添加による骨芽細胞の分化抑制効果は培養後期に認められ、この抑制効果はPTH刺激cAMP産生量と関連している。5)増殖期の細胞をPKCインヒビターであるスタウロスポリンで処理することにより、PTH添加によるcAMP産生はコントロールの2-3倍に上昇し、さらに細胞分化抑制効果の促進が認められる。これらの事実から、PTHによる分化抑制は主としてPKA経路により介されており、骨芽細胞の増殖期ではPKC経路がPKA経路活性化のカウンターレギュレーションとして働くために、PTHによる分化抑制が抑制されていると考えられた。また、培養後期(細胞分化期)ではPKC経路のカウンターレギュレーションが減少し、このためPTH受容体とPKA経路の共役が促進、PTHによる分化抑制が発現するものと考えられた。
|