研究概要 |
ニフェジピン(NF)誘発性歯肉増殖症(OG)における好中球エラスターゼ類似蛋白分解酵素のメダラシン(Med)の病態生理学的役割を明らかにするために、NF-OG患者の罹患歯肉組織におけるMed陽性細胞の同定ならびに分布を特異抗体を用いて検索し、慢性辺縁性歯肉炎(MG)患者歯肉の場合と比較検討した。被検者はOG罹患患者5名(平均年齢46.4才)ならびに対照として同薬剤を服用しないMGを有する患者(平均年齢47.2才)5名を用い、両群より各々20個の歯肉標本を採取した。臨床所見としては、Gingival Index(Loe,1967)がそれぞれ1.83および1.85で、歯周ポケットの深さは両群ともに全ての部位において3.5mm以下で群間の差は認められなかった。歯肉組織をポケット上皮直下(Zone I)、結合組織深部(Zone II)、口腔上皮直下(Zone III)の3領域に分け、Med陽性細胞の頻度および分布を検討した。その結果、各群間の比較では全ての領域においてOG群の方がMG群よりMed陽性細胞の頻度が高く、特に、Zone IIとZone IIIにおいて有意差が認められた(p<0.01)。各領域間における比較では、OG群はZone IIにおいて(p<0.01)、MG群はZone Iに有意に多く認められた(p<0.01)。OG群では炎症性細胞、Med陽性細胞ともに歯肉結合組織全体に散在的に存在していたが、Med陽性細胞は主として好中球で、マクロファージの一部にも認められた。また、MedはZone IIの血管周囲に集積し、主として炎症性細胞からなるcluster内に数多く存在していた。これに対し、MG群の陽性細胞はほとんどが好中球で、ポケット上皮直下に集中する傾向があり、cluster形成は認められなかった。これらの所見よりMedはOG群において宿主の防御機構および免疫調節に重要な役割を果たし、おそらくは細胞障害性に働くことが示唆された。
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