研究概要 |
歯周治療後の理想的な治癒形態は、歯周病により破壊された歯周組織の再生であり、これには歯根膜線維芽細胞が重要な役割を演じていると考えられている。また、骨基質中に含まれる生理活性ペプチドの一つであるBone Morphogenetic Protein (BMP)は、動物の筋肉内や骨折部で骨形成を誘導することや、骨髄中の骨芽細胞前駆細胞から骨芽細胞への分化に関与していることが知られている。我々は、歯周病による骨欠損にBMPを応用する為の基礎研究として、ヒト歯根膜線維芽細胞(HPLFs)の増殖能および骨芽細胞様細胞への分化能に及ぼすrecombinant human BMP-2 (BMP-2)の作用を検討した。また局所に産生分泌される各種サイトカインとの相互作用も検討した。◯細胞増殖に対する作用: rhBMP-2は単独刺激では細胞増殖能に影響を与えなかった。しかし、BMP-2とIGF-IあるいはPDGF-BBは相加的にHPLFの増殖を促進した。◯分化機能発現に対する作用: 1)BMP-2は濃度依存的にHPLFのアリカリフォスファターゼ(ALP)活性を上昇させた。これに対し、PDGF-BB, IL-1β, TNF-αはこれを抑制し、IGF-I, IL-6は影響を与えなかった。また、IGF-I, IL-1βはBMP-2によるALP活性をさらに促進した。2)BMP-2は濃度依存的にHPLFにおけるPTH依存的cAMP産生を促進した。またIGF-IはこのBMP-2によるPTH応答性の亢進を相乗的に上昇させた。3)BMP-2はBone gla protein (BGP)産生を誘導しなかった。4)BMP-2はHPLFのprocollagen typeI c-peptide (PIP)産生に影響を与えなかった。上記のようにBMP-2は、歯根膜線維芽細胞の細胞増殖能を変化させずに、骨芽細胞の分化マーカーであるALP活性およびPTH応答性を亢進した。また、このBMP-2による歯根膜線維芽細胞の骨芽細胞分化マーカー発現の亢進は創傷治癒の過程で周囲組織から産生分泌される各種サイトカインや増殖因子により制御されていると考えられる。特にIGF-IはこれらのBMP-2の作用を相乗的に亢進することから、BMP-2を歯周治療へ応用する際、IGF-Iとの同時使用が、より予知性の高い歯周組織再生を導く可能性があるだろう。
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