最大30日間長期培養したウシの象牙芽細胞の培養液中に分泌される蛋白分解酵素を、培養日数別に上清ごと回収し、ゼラチンを基質としたエンザイモグラムにかけ分析したところ、培養開始後16日目にゼラチナーゼA(type IV collagenase)の発現によるゼラチンの顕著な分解が見られた。またこの培養上清によるウシ象牙質由来のリン蛋白質(フォスフォフォリン)に対する酵素反応を行なったところ、同様に16日目のサンプルにおいてファスフォフォリの分解がより高い結果が得られた。これらの事から培養16日目付近においてtype IV collagenフォスフォフォリンを分解するゼラチナーゼが細胞により分泌されるものと思われる。この時期は当細胞培養系においてコラーゲンの合成が終息し、アルカリフォスファターゼ活性がピークをすぎ、さらにオステオカルシン産生とミネラルの蓄積が始まるいわゆる石灰化開始(20日頃)時期であると考えられるステージに相当する。さらに我々の以前の報告ではフォスフォフォリンの分子量が100Kぐらいのintactな状態のときはリン酸化は細胞の内側でしか起こらないが、これに対してフォスフォフォリンがある作用により60K付近まで低分子化すると、途端に細胞外のリン酸化が始まるという結果が得られている。細胞外基質リン酸化を石灰化の前段階と考えるのであれば、フォスフォフォリンを低分子化させるこのゼラチナーゼが象牙質石灰化の引金になるのではないかと推察した。
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