研究概要 |
現在,補綴治療においてインプラントを選択する機会が増加している.インプラントは顎骨と骨結合するため周囲の歯根膜は存在せず,インプラント周囲からの感覚情報が制限される.一方,歯根膜感覚受容器は咬合時に歯牙に加わる力をフィードバックし,咀嚼時の咬合力を経時的に変化させながら咀嚼運動を巧妙に制御していると推察される.そこで,インプラント患者のゴム硬さ弁別およびその時の咬合力(弁別時咬合力)を同時に測定することにより,インプラント植立者の咬合力制御機構を検索した. その結果,1,ゴム硬さ弁別実験の正常有歯顎者群における正解率は左側で75.2±3.94%(mean±SD),右側で72.25±2.96%,インプラント患者群における正解率は天然歯側で70.66±4.50%,インプラント側で68.66±7.11%であった.以上より被験者間および左右側間の正解率に有意な差は存在しなかった. 2,ゴム硬さ弁別時の咬合力は正常有歯顎者群の左側で49.18±3.22N(mean±SD),右側で45.54±3.80N,インプラント患者群における弁別時咬合力は天然歯側で63.31±11.11N,インプラント側で62.42±10.37Nであった.以上より正常有歯顎者群の左右側間およびインプラント患者群の被験歯間の弁別時咬合力に有意差は存在しなかった. しかし,ゴム硬さ弁別時の咬合力はインプラント患者群が正常有歯顎者群と比較して有意に大きかった. 以上より,インプラント植立者においては歯根膜感覚の喪失を他の口腔感覚や,咬合力を増加することにより補償し,咬合力を制御しているものと思われる.
|