研究概要 |
本研究はラットの臼歯部口蓋を対象として,義歯床を介して加えられる咀嚼圧によって惹起される義歯床下粘膜上皮細胞の活性動態の変化について,上皮基底細胞核が示すNORs(nucleolar organizer regions)数を指標として,上皮組織に惹起される病理組織学的変化との関連において検討することを目的とした. 15週齢のウイスター系雄性ラット120匹(義歯装着群3群と対照群1群 各30匹)を用いた.義歯装着群に対しては,安静時には義歯床下組織と無圧の状態で接触し,咬合時には規定量(100,50および13μm)だけで沈下する義歯床を装着した.対照群は義歯を装着することなく経過させた.義歯床装着1,2,4,8,12および20週後に各群の5匹ずつを屠殺して義歯床下の口蓋粘膜を採取し,4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した後,通法に従ってパラフィン包埋した.2μmのAgNOR染色標本を対象として,各実験条件毎に上皮基底細胞核1個当たりのNORs数の平均値を求め,各実験群間の有意差検定を行った.また,4μmのヘマトキシリン-エオジン染色標本を対象として上皮組織の病理組織学的変化を観察した. その結果,義歯床下粘膜の上皮基底細胞核の示したNORs数は,病理組織学的変化との関連を示して変化した.義歯床下粘膜上皮に退行性の組織変化がみられた義歯床装着1および2週後のNORs数は,いずれの義歯装着群においても対照群に比べて有意に減少すると同時に,義歯床の沈下量の増加に伴って減少した.4週後の義歯装着群のNORs数はいずれも,対照群に比べれば有意に低い値を示すものの,上皮組織の増殖性変化に伴って2週後に比べて増加して各沈下群ともほぼ同様の値を示した.8週後以降は,13μm沈下群のNORs数が経時的にわずかに増加して対照群と同様の値を示したが,50および100μm沈下群では対照群ならびに13μm沈下群に比べて,その差は大きくはないものの,有意に低い値を示した.
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