研究概要 |
I.目的 本研究では,主として唇顎口蓋裂および顎欠損患者の補綴処置過程における調音時の歯列と口腔の運動を高速VTRシステムを用いて3次元解析し、さらに歯列を含めたパラトグラムの画像処理を行い、パターンの異常度と発語明瞭度を比較検討し、補綴処置による発音機能改善の評価法を検討した。 II.方法 被検者は(1)唇顎口蓋裂および顎欠損患者、(2)被験者は、〔サシヒカキタナラヤ〕および〔桜の花が咲きました〕(3)高速VTRによる3次元運動解析は、〔桜の花が咲きました〕と発音中の被検者の顔面正と側貌を2台の高速TVカメラで音声と同時に記録し、画像解析装置によって自動解析し、立体構築を行った。(4)パラトグラム記録法は、義歯ナシでは顎欠損部分を除く歯槽堤と口蓋部を、顎義歯では歯列を含む口蓋部を覆う記録板を用いて粉末法によって求めた。(5)各被検音5回の画像に共通する部分を抽出して平均化した外形線を描き、さらに、顎義歯の歯列の外形線を重ね合わせ表示した。(6)パラトグラム異常度の評価法は、これらのパターンを正常者の標準形態と比較し、パラトグラム異常度を表した。(7)発語明瞭度検査は、パラトグラムを採得した9語音を3音ずつ組合わせた30組の3連音検査表を被験者に発音させ、検査表と一致した語数の百分率を各音の発語明瞭度とする。さらに、コンフュージョンマトリックスによって異聴傾向を観察した。(8)3の3次元運動解析、6のパラトグラム異常度、7の発語明瞭度を総合的に検討し、義歯による発音機能改善の評価法を検討した。 III.結果と考察 パラトグラム異常度は「シ,ヒ,タ,ナ,ラ」では術前,仮義歯,最終義歯の順に著しく減少し,「シ,ラ」では発音異常度も比例的に減少した。「サ,キ」では各時点で30〜70%のパラトグラム異常度が続いていたが,発音異常度はどの時点でもきわめて小さかった.3次元解析による短文発音中の全体の経路をみるとCubical Rangeは,仮義歯の装着により一旦大きくなるが,最終義歯で下口唇以外では再び小さくなる.TLとTHETAの総和は上下口唇以外は最終義歯で減少し,移動量が小さく,経路が直線的になったことを示していた.文中の〔∫〕の解析結果であるが,文全体とは異なった傾向がみられた.発音とパラトグラム異常度および口腔周囲組織の運動を比較検討することにより補綴処置による機能改善の評価ができると思われる.
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