悪性腫瘍において、接着分子E-カドヘリンは腫瘍胞巣の構成や保持に重要な役割を果しており、その発現異常が転移と深く関連することが知られている。申請者の研究結果から、口腔扁平上皮癌においても細胞表面のE-カドヘリンの発現が一部でも減弱あるいは欠損している症例では、有意に所属リンパ節転移頻度が高いことが示され、E-カドヘリンの発現の検討が転移を予測する上で有用である可能性が示唆された。一方でE-カドヘリンが発現しているにもかかわらず転移を生じた症例が認められた。細胞質内にあってE-カドヘリンと結合し、その機能を調節しているものがα-カテニンであり、以上の症例ではα-カテニンの異常に起因するE-カドヘリンの機能的異常が生じている可能性が考えられる。今回申請者は、E-カドヘリンの発現が一部で減弱あるいは欠損している33症例(中等度発現症例)について、転移の有無およびα-カテニンの局在について検討し、以下の結果を得た。E-カドヘリン中等度発現33例中12例(36.4%)が転移陽性であった。細胞膜相当部におけるα-カテニンの発現は、転移陽性12例では発現(+)5例、発現(-)7例であったのに対して、転移陰性21例では発現(+)18例、発現(-)3例であり、転移陽性例では有意にα-カテニンが欠失する傾向であった(p=0.0241)。したがって、E-カドヘリンの発現の検討のみでは転移の予測が困難である症例において、さらにα-カテニンの局在について検討することにより、さらに信頼度の高い転移の予測が可能になるものと思われ、これは口腔扁平上皮癌の一次治療法を選択する上できわめて有用な情報となり、治療成績の向上に貢献することが予想される。現在、術前化学療法によってE-カドヘリンの発現が変化した症例において、同時にα-カテニンの発現も変化し、腫瘍細胞同士の接着能が変化しているのどうかについて追加検討中である。
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