研究概要 |
アポトーシスの特徴であるDNA fragmentationを標識するTUNEL法(TdT-mediated dUTP-biotin nick end labelling)を応用し,頭頸部扁平上皮癌におけるアポトーシスの発現についてまず観察を行った。またアポトーシスに関与する遺伝子のうちで,アポトーシスを阻害する機能を有するsurvival geneとして知られているbcl-2の産生蛋白の発現率を観察し,癌におけるアポトーシスの局在とこれに関与する遺伝子の関連性を探った。さらには細胞増殖という上記とは全く異なる観点から癌の動態をみる指標として,抗PCNA抗体を用いた。当科において加療を行った70例の頭頸部扁平上皮癌臨床例の生検標本ならびに手術摘出標本を使用した。まずTUNEL法により蛍光標識し,連続切片上で免疫組織化学的にbcl-2遺伝子産生蛋白ならびにPCNAに対するモノクロナール抗体の染色を行った。 その結果 1.扁平上皮癌70症例中,55例(78.6%)にTUNEL法により標識を認めたが,TUNELの標識率と分化度との間には強い相関関係を認めた。 2.TUNELの標識率とbcl-2の発現率との間には明らかな相関は認めなかったが,bcl-2に強陽性の部位ではTUNELの標識は常に陰性であった。 3.TUNELの標識率と予後との相関をみると,標識率が低い症例では有意に生存率が低い値を示した。また,PCNAの標識率が高い症例で生存率は有意に低かった。一方,bcl-2の発現率と予後との相関は認めなかった。 以上のことより,癌細胞においても死にいたるプログラミングが多くの場合残されており,その多寡は予後に影響することが伺えた。しかし一方でDNAの断片化がbcl-2の発現により抑制されている所見もみられ,癌全体でみた場合には両者のバランスを左右する因子につきさらに検討する必要を認めた。
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