研究概要 |
本研究では、新しく開発された分化誘導剤である酪酸のpro-drug (AN-9)が、ヒト唾液腺癌細胞株(HSG)の増殖、分化あるいはras p21の発現に及ぼす影響につき検索し、下記の結果を得た。 1)AN-9(100-150μM)は、HSG細胞のanchorage-dependent growthおよびanchorage-independent growthを著明に抑制した。一方、比較対照として用いた酪酸ナトリウムは、AN-9の約10倍濃度においてHSG細胞の増殖を抑制した。 2)AN-9,150μMにてHSG細胞を4日間培養すると、HSG細胞の形態は紡錘形を呈するとともにHSG細胞では発現がみられないミオシンを発現した。また、HSG細胞において発現を認めるras p21は、AN-9で処理することにより、発現が低下した。すなわち、HSG細胞は、AN-9により筋上皮様細胞へ分化するとともに、ras p21の発現が低下した。 3)AN-9,150μMにてHSG細胞を4日間培養し、アクリジンオレンヂ・エチジウムブロマイドによる二重蛍光染色および超微構造的検索を行ったところ、死細胞において、核内のクロマチン凝縮を認めた。しかし、AN-9により培養液中に浮遊してきたHSG細胞のDNA電気泳動パターンを検索したところ、明らかなラダーパターンは検出されなかった。すなわち、AN-9によるHSG細胞の細胞死は、形態学的にアポトーシスであることが示唆された。 4)HSG細胞1×10^7個をヌードマウス背部皮下に移植し、形成されたHSG腫瘍の腫瘍内にAN-9,20mMを10日間連日投与するとともに、換算腫瘍体積を算定した。その結果、AN-9によりHSG腫瘍は著明に縮小し、投与開始10日目にHSG腫瘍はほぼ消失した。そのため、HSG腫瘍につき組織学的検索を行うことができなかった。今後は、in vivoにおけるAN-9の至適濃度を再検討し、本研究を継続して行う予定である。
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