研究概要 |
口腔扁平上皮癌患者の生検・手術材料を用いてABC法によりLe^Y抗原,PCNA,p53(変異型)の発現を検索し,nick-end labellingにてDNA断裂部の検索を行った。未分化な癌胞巣ではPCNAやp53の発現の認めるが、Le^Y抗原の発現やDNA断裂部は検出されなかった。一方、癌真珠やその周囲の腫瘍分化を示す癌胞巣ではLe_Y抗原の発現を認めるが,PCNAやp53はほとんど検出されなかった。また核が凝縮し萎縮した細胞では,DNA断裂とLe^Y抗原の発現を認めた。さらにLe^Y抗原と分化度とは相関性が高く,高分化型である程Le^Y抗原の発現は著明であり,またnick-end labellingにて検出されるDNA断裂部に一致してLe^Y抗原の発現が認められた。以上より口腔扁平上皮癌においては、Le^Y抗原はアポトーシス関連抗原であると同時に,分化マーカーともなりうる知見を得た。また病期,TNM分類などとの相関性では,進展症例である程Le^Y抗原の発現は弱いものであった。次に口腔扁平上皮癌患者48例(経過良好症例30例・経過不良症例18例)を対象とし,それらの初診時生検材料での上記4者の発現と経過・予後との関連性を検討した。PCNAの発現が強い程,またp53の発現が強い程経過不良であり,経過良好・不良群間で有意差を認めた。Le^Y抗原の発現が強い程経過良好であり,経過良好・不良群間で有意差を認めた。Nick-end LabellingによるDNA断裂が著明である程経過良好な傾向にあったが、有意差を認めなかった。PCNAやp53の発現が強くても,Le^Y抗原やnick-end labellingの発現が強い場合には,経過は良好な傾向にあった。以上よりPCNA,p53,Le^Y,nick-end labellingは口腔扁平上皮癌における予後因子として有用なものと考えられた。さらに治療前,治療中,治療後に上記4者の発現を検索すると,治療効果に応じて,PCNAやp53の発現が減弱し,Le^Y抗原の発現やDNA断裂が増大する所見を得ており,経過観察を行う上で有用な指標になり得ると考えられた。
|