「痛み」は患者、治療者、および社会経済的にも重要な問題である。一方、痛みの評価は患者の個人的経験を主体としてなされるため、個人の心理状態などは大きな個人間の変動因子になり得る。本研究班は従来より顎関節症患者個々の疼痛表現を日本語版McGill疼痛質問表(JMPQ)を用いて収集し、検討報告してきた。今回JMPQを用いた痛みの評価が、患者のパーソナリティの影響をどの程度受けているかを知る目的で、JMPQと同時に心理テストを行った。心理テストには調査対象者のその時点での自我状態を簡便かつ適切に現すとされている東大式エゴグラム(TEG)を用いた。調査対象者には顎関節あるいは咀嚼筋群に痛みを訴えて来科した顎関節症患者群の中から本研究に同意を得られた15歳以上の男性16名、女性44名、計60名を用いた。JMPQの回答では日本顎関節学会雑誌第5巻に報告した結果と同様、感覚的表現が明らかに多かったが、TEGのパターン分類は多種にわたり、それぞれの出現率のx二乗検定では差は認められず、疼痛を伴う顎関節症患者が現す特徴的なTEGパターンは得られなかった。また、各TEGパターン群におけるJMPQの感覚的、情動的、および評価的表現のスコアーとのScheffeの水準間比較検定結果でも相関の有意差は見られなかった。以上より、JMPQで得られた痛みの評価は、患者の自我状態の影響を受けにくいと考えられた。この結果は、JMPQを用いた評価に際し、個人の自我状態を考慮せずに、個人間の痛みの質的評価が可能であることを示唆している。
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