矯正治療における歯の移動様相は、歯に負荷した水平力とモーメントのバランスが適切であれば、平行移動であるとされている。 しかし、申請者はブラケットとワイヤーからなる矯正装置の摩擦に着目し、ブラケットはワイヤー上で滑走と静止状態があるのではないかとの疑問を懐いている。そこで、それぞれの場合における力学的均衡状態での歯の移動を、コンピューターによる非線形有限要素解析で求めた(これは科学研究費奨励A06771990の助成による)。その結果、歯の移動は滑走状態で傾斜移動、静止状態でそれが直立する移動であった。したがって、実際の歯の移動は、傾斜移動とそれが直立する移動の繰り返しで生じる可能性があると報告した(第53回日本矯正歯科学会大会)。 さらに今回は、理論だけではなく、模型実験においてブラケットはワイヤー上で滑走と静止を繰り返すかどうか実測を試みた。方法は、歯の移動に伴う矯正用ワイヤーの電気インピーダンスの変化を経時的に計測し、それを距離に換算し経時的移動量を求めるものである。その結果、ブラケットはワイヤー上で滑走と静止を繰り返すことがわかった。 以上のことより、歯の移動は、ブラケットがワイヤー上を滑走する傾斜移動と、ブラケットがワイヤー上で静止し、歯根を直立させる移動の繰り返しで行われていることが現象として生じうることがわかった。 なお、本研究の一部は、第3回顎顔面バイオニクス学会(東京)において発表した。
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