研究概要 |
今回、ヒトを対象に非対称フェイスボウ装着時の上顎第一大臼歯の初期変位を測定し、本装置の効果および副作用について解析した。さらに、これらの結果をもとに、臨床上有効な適用法についての考察を加えた。 矯正力作用時の大臼歯の初期変位を測定するために、3次元微小変位測定装置を作製した。変位センサと角度センサ、磁石を組み合わせることで、3次元の変位および1方向の回転を同時に測定することが可能となった。フェイスボウには、3種類のデザインのpower arm face-bow,swivel face-bow,Sander face-bowを用いた。 結果および考察は以下のとおりである。1)Power arm face-bowにおいて、アウターボウの非対称性の増加に伴い、、左右非対称な遠心移動が可能となったが、一方では望ましくない副作用として、より大きな遠心移動の必要な大臼歯が舌側に変位し、交叉咬合を引き起こす危険性が示唆された。2)Swivel face-bowでは、蝶番内で発生する摩擦力の影響により、予想された効果とは異なる結果が得られた。3)Sander face-bowでは、本研究で解析されたすべての非対称フェイスボウのなかで、もっとも非対称な大臼歯の遠心移動を生じさせたが、副作用による効果も大きかった。4)頸部固定による非対称フェイスボウ装置では、フェイスボウのデザインにかかわらず、交叉咬合を引き起こす側方力の発生を避けることはできず、他の矯正力伝達系を考案する必要がある5)副作用を除去するために、左右逆に装着した非対称フェイスボウとパラタル・アーチを併用する方法、口蓋インプラントを固定源とし、パラタル・アーチを介して左右非対称な遠心力を伝達する方法が推奨された。 今後、現行の4自由度変位測定システムをさらに発展させ、6自由度変位測定装置を完成し、より詳細な歯の移動を解析することで、種々の矯正装置の作用効果を解明していきたい。
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