牛歯エナメル質をpH4.0の乳酸緩衝液によって脱灰させ、その後再石灰化液に浸漬させることによって生じるエナメル質の最表層の最石灰化過程の化学的変化を、マイクロレーザーラマン分光法を用いることによって経時的に観察することができた。すなわち、脱灰処理によって、ハイドロキシアパタイトに由来するリン酸結合のピークが低波数側にずれるが、再石灰化処理によって最終的には脱灰処理前のエナメル質ピーク像に近い状態までに回復した。また、標準物質のピーク像の照合した結果、エナメル質の再石灰化過程では、CaHPO_4・2H_2Oをはじめとする前駆物質を経て、最終的にハイドロキシアパタイトへ移行することが明らかになった。 同時に、SEM観察を行い、上記のマイクロレーザーラマン分光分析で得た結果を検証した。その結果、再石灰化処理によってエナメル質表層の形状の変化が認められた。これは、処理によって歯質表層にカルシウム・リン酸化合物が生成することに起因するものと考えられる。また、表面反射FT-IR法をマイクロレーザーラマン分光法と併用したが、その表面微量検出能力はマイクロレーザーラマン発光分析と比較して低かった。 以上の結果より、マイクロレーザーラマン分光分析法は、エナメル質表層で生じる脱灰・再石灰化過程の化学的変化を経時的に解析するのに適した分析方法であることがあきらかになった。このマイクロレーザーラマン分光法は、無機質の検出のみならず有機質の検出にも十分な感度を有するため、今後、根面象牙質の脱灰・再石灰化過程の分析にも有効であると考えられる。
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