研究概要 |
鼻呼吸障害が顎顔面頭蓋の成長発育に及ぼす影響について,鼻呼吸が障害を受けてから筋肉に変化が現れるまでの時間的関係について詳細に追求した. 生後4週齢のWistar系Crj雄性ラットを用い,腹腔内麻酔下に左側外鼻孔を縫合により閉塞した.対照群には麻酔のみを行った.閉塞手術後1,2,3,4,5,6,7,8,9週の各群10匹づつをエーテル麻酔により屠殺して咬筋を摘出した.通法に従って凍結標本を作製し,10の厚さで連続切片を作製した.切片にはHE染色,SDH染色,ATPase染色を施して組織化学的検索を供した.SDH染色切片の倍率400倍の顕微鏡像から,濃染,淡染のそれぞれについて筋線維の直径を計測した.直径は標本作成字の誤差を少なくするために各線維の短径を50本づつ計測し,対照群と実験群と有意差検定した.結果:(1)実験期間中の体重変化については,対照群が実験群を上回ってやや大きい傾向にあったが,全体として対照群,実験群の間に大きな差はなかった.(2)濃染および淡染の両方の線維において,鼻閉塞手術1週後から9週後まで,実験群は対照群に比較して,有意の差をもって小さかった.(3)筋線維の低形成は,鼻閉塞9週後まで持続していた. 以上の結果から,成長発育期における鼻呼吸障害は,その直後から咬筋の発達に対して影響を与えること,また鼻呼吸障害の期間中は,catch-upはみられず,影響が持続することが判明した.しかし,この影響が下顎骨自体の形態変化として発現するには,なお時間的な差があるのではないかと考えられる.また,低形成は濃染および淡染の両線維にはほぼ同程度に認められたが,これらの線維のうちどちらが骨の形態形成に大きく関与するのかなどについては,今後の課題であると考える.
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