ラセミ体のトリパラノールは4-ヒドロキシベンズアルデヒドから4工程、約60%で合成した。光学分割剤として種々の光学活性カルボン酸類を検討した結果、光学活性タートラニル酸を用いる方法のみが光学活性体を与えた。ラセミ体からの収率は10-20%とやや低いものの、得られるトリパラノールの光学純度は両対掌体とも98%以上であることを光学活性カラムを用いるHPLCにより確認した。得られた光学活性トリパラノールの阻害活性を調べるため、阻害活性試験条件を探索した。ラット肝のホモジネートを酵素源とし、^<13>C-ラベルしたデスモステロールを基質としてインキュベートすると相当する^<13>C-ラベルしたコレステロールが得られ、その変換率は^<13>C-NMRの各ピーク積分値から算出できる。この酵素反応を詳細な検討により最適化し、変換率80-90%の条件を確立した。阻害剤としてトリパラノールのラセミ体、(+)-体、(-)-体をそれぞれ基質と同量(280μM)添加すると、コレステロールへの変換はいずれもほぼ完全に阻害された。また阻害剤の量を基質に対し5-50%としてそれぞれ試験した結果、阻害活性は用量依存性であること、10%(28μM)使用にて阻害率は約50%であることがわかった。ラセミ体、(+)-体、(-)-体の阻害活性の強さに有意差は見られなかった。本研究によりトリパラノールは両対掌ともにラット肝におけるコレステロール生合成(デスモステロールの還元反応)を阻害することが明らかとなった。唯一の不斉部位である3級アルコールは活性発現に必須であると考えられるが、その立体配置は活性に影響しないという結果は興味深い。さらに副作用である白内障誘発について活性と立体配置の関係を調査し、作用福作用の分離を試みたい。
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