研究概要 |
イルジン類は、キシメジ科の毒キノコに含まれるセスキテルペノイドで、スピロ[5.2]オクタン環に5員環が縮環した炭素環状構造(イルダン骨格)がユニークであることに加え、強力な抗腫瘍活性を示すことから興味の持たれる化合物である。筆者は研究計画調書に示したように、(1)分子内にオレフィンとアセチレンを有する化合物の光付加環化によるビシクロ[3.2.0]ヘプテン環の形成;(2)熱環開裂によるビニルシクロペンテン誘導体の形成;(3)アルキルシクロプロピリデンアセタートとのDiels-Alder反応を1ポットで連続的に行い、短工程でイルダン骨格を合成することを目的に本研究を行った。まず、鍵中間体である1-tert-Butoxy-5-tert-butyldimeth-ylsilyloxy-4,4-dimethyl-6-octen-1-yneを合成しその光付加環化について検討したが、ビシクロ[3.2.0]ヘプテン誘導体を得ることはできなかった。そこでビニルシクロペンテン誘導体を別法で合成し、シクロプロピリデンアセタートとのDiels-Alder型反応について検討することにした。すなわち、市販の(-)-pantolactoneから容易に得られる3-tert-Butyldimethylsilyloxy-4-isopropoxy-2,2-dimethyl-4-butanolideに対しアルキル化、分子内アルドール縮合、還元反応等を利用し合成した3-tert-Butylsilyloxy-5-hydroxy-4,4-dimethylcyclopenten-1-yl-1-propanoneのリチウムジエノラートにEthylcyclopropylideneacetateを反応させたところ、イルダン骨格を単一生成物として合成できた。さらに、得られた化合物の2級水酸基の脱離後、ケトンのα位に酸素官能基を導入することにより、イルジンMに変換可能な官能基を有する重要中間体の合成を達成した。 本研究により種々のイルジン類縁体に誘導可能なイルダン骨格をDiels-Alder型反応を鍵ステップとし、既知化合物より4工程という短工程で構築することに成功した。現在、この手法を用いイルジンM及びイルジン関連化合物の合成について検討中である。
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