強い抗腫瘍性活性を有するタキソ-ルの活性発現にはC4、C5位に縮環したD環(オキセタン環)が必要不可欠である。このD環は生合成的にはタクスシン誘導体のC4末端メチレンのエポキシ化、続く反転を伴うエポキシ環の転位反応によりオキセタン環が形成されると考えられる。そこで申請者らが既に見出している金属塩存在下におけるエーテル環の環拡大反応を用いることにより生合成的経路に基づくD環部の合成を検討した。 生合成経路を踏まえ4-tert-Butylcyclohexanoneからタクスシン型の末端メチレン基を持つアリル型アルコールを得ついでエポキシ化反応によりBaccatin型のエポキシアルコールを得た。さらに水酸基をメタンスルフォニル化し転位反応の基質を合成した。次に基質に対し4等量の炭酸銀を用いて含水アセトン中で転位反応を試みたところ、エポキシ環がオキセタン環に転位し、10%ながらタキソ-ルD環部に相当する化合物を得ることができた。金属塩として酢酸亜鉛を用いたところ収率は25%まで向上した。尚、転位反応を通常の条件である含水酢酸中で行なうと立体化学を保持したままエポキシ環の加水分解反応が進行しトリオールが得られた。つぎに本反応の反応機構を解明する目的でエポキシ環の立体化学が逆の配置を有する基質を用いて転位反応を検討したところ、メタンスルフォニル基とアンチペリプラナーの関係にあるエポキシ環の炭素が転位し、その後の加水分解によりケトンが選択的に得られた。このことより本転位反応は協奏的に進行していることが明らかとなった。
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