研究概要 |
グルコース調節ストレス応答は,固形腫瘍内で起こる栄養飢餓・低酸素状態などのストレスによって誘導される細胞応答である。今回,ヒト大腸癌HT-29,卵巣癌A2780細胞において,同ストレスによってトポイソメラーゼI (topol)阻害剤カンプトテシン(CPT)の耐性が誘導されることを見い出し,耐性機序を解析した.耐性誘導に伴い,ストレスを受けた細胞へのCPTの蓄積が低下し,CPTによるtopo I-DNA cleavable complexの形成量が低下した.しかし,topolの発現量・活性の変化は認められなかった.以上から,ストレスによるCPT耐性には,CPTの細胞内への蓄積低下が重要であると考えられた.また,細胞周期の解析の結果,ストレスによりG1 arrestが起こることが明らかになった.CPTはS期に特異性を示す薬剤であることから,このG1 arrestもCPT耐性に寄与しているものと考えられた. グルコース調節ストレスは,CPT耐性以外にもアドリアマイシン,VP-16などのtopol II阻害剤,ビンクリスチンなどの微小管重合阻害剤の耐性も誘導する。こうした多剤耐性は,臨床の多剤耐性現象と良く合致する。臨床における固形癌の耐性には,ストレス応答的な一過性の耐性あるいは固形癌特有の耐性メカニズムの重要性が示唆されていたが,その研究の糸口がつかめたものと考えられる。今後このストレスによる抗癌剤耐性の分子メカニズムを解明し,臨床の耐性との関連性を明確にしていきたい。
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