研究概要 |
1.胃H^+,K^+‐ATPaseの機能的な発現について 胃H^+,K^+‐ATPaseは胃酸の分泌に携わるプロトンポンプである。これまで、このポンプについてはcDNAを機能的に発現することができなかったため、ポンプの構造と機能との関連についての研究が進んでいなかった。 私は、ウサギの胃H^+,K^+‐ATPaseのα、βサブユニットのcDNAに修飾を施したのち、ヒト腎臓由来の培養細胞、HEK‐293に導入することによってこのATPaseを機能的に発現させることに成功した。 2.胃H^+,K^+‐ATPaseの触媒中心やイオン認識部位への部位特異的な変異導入について 前項に述べた機能的な発現系を用いて、H^+,K^+‐ATPaseの触媒中心やイオン認識部位に変異を導入し、その機能的な変化を観察した。 触媒中心にリン酸化部位(Asp‐387)に変異を導入すると、変異体はすべて活性を失った。Asp→Gluという形でカルボキシル基を保持して側鎖の大きさを変えただけでも失活がおこった。このことから、リン酸化部位には厳格な一定の構造が要求されるものと考えられた。 また、αサブユニットの4番目の膜貫通領域(M4)に存在するグルタミン酸残基(Glu‐345)に変異を導入すると、多くの変異体は活性を完全に失ったが、グルタミン変異体(E345Q)は、野生型の約40%の活性を保持した。この変異体は、K^+に対する親和性が低下するとともに、ATPに対する親和性が上昇していた。 このことから、Glu‐345がK^+の認識に関与していること、またGlu‐345と原形質側のリン酸化部位Asp387、ATP結合部位Lys‐519をつなぐM4セグメントがATPの加水分解とイオンの認識、輸送とを結びつけるエネルギー伝達に重要な役割を果たすものと考えられた。
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