ムスカリン受容体に対する放射性リガンドの結合を阻害する蛋白質因子(EIFα)の存在をモルモット回腸縦走筋の可溶性画分中に見いだし報告した。本研究では、まず、この阻害作用の機構について検討した。EIFαは放射性リガンド結合の親和性には影響せず、その結合部位を可逆的に減少させた。このような阻害作用は、EIFαが放射性リガンドとは異なる部位に結合し、リガンドの会合を阻害するという速度論的モデルでよく説明することができた。このことからEIFαがムスカリン受容体を介する反応を抑制する可能性が示唆された。そこで、次に、モルモット回腸縦走筋の収縮反応に対するEIFαの作用をマグヌス法により検討した。 EIFαは熱に安定であるため、可溶性画分の熱処理による変性蛋白質の除去により比較的多量の粗精製標品を得ることができる。この粗精製標品縦走筋標本に適用したところ意外なことに強い収縮反応が認められた。単離平滑筋細胞を用いた検討の結果、この収縮活性はEIFαと同様、平滑筋細胞に由来するものと考えられた。しかし、この収縮活性はアトロピンでは抑制されないことからムスカリン受容体を介する反応ではないことが明らかとなった。また、この収縮活性はEIFαとは異なり、トリプシン処理により失活しなかった。これらの結果から、粗精製標品の適用による縦走筋標本の収縮反応はEIFαによるものではないと結論された。そこで、EIFαの粗精製標品から混在する収縮因子を分離する必要が生じた。種々の精製法について検討したが、最終的に等電点分画およびDEAE-カラムクロマトグラフィー法により、EIFαの部分精製に成功した(in press)。しかし、得量的にマグヌス法による検討が困難であるため、現在、培養細胞の細胞内カルシウム濃度変化を指標としてEIFαの作用を明らかにするための準備を進めている。 一方、EIFαの粗精製標品に混在する収縮因子を精製したところ、これが生体アミンの一つであることが明らかとなった。また、免疫組織化学的検討の結果、この生体アミンは平滑筋細胞内に存在することが強く示唆された。現在、平滑筋の収縮反応において、この生体アミンがどのように関与するのかについて検討している。
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