本研究では、ペルオキシソーム増殖薬(PP)による酵素誘導に関して、その作用を媒介する細胞内因子の同定ならびに標的となる酵素遺伝子の転写調節機構の解明を目的とした。PPとしてデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)を取り上げ、ラット肝におけるDHEAS特異的結合タンパク質について、また標的遺伝子として長鎖アシルCoA水解酵素ACH2遺伝子について検討を行った。研究実施計画に基づいて光アフィニティーリガンドを設計・合成し、これを用いてラット肝可溶性画分および核画分中に数種類のDHEAS特異的結合タンパク質を検出した。このとき同時に化学構造の全く異なるPPであるベザフィブレート(BZ)についても同様の検討を加え、新たにBZ特異的結合タンパク質を検出した。これらの結合タンパク質を単離精製するには至らなかったが、今回合成した光アフィニティーリガンドの有用性とともに、これらの知見は関連研究分野において重要な情報を提供するものであり、現在論文として投稿の準備を進めている。一方、PP処置ラット肝cDNAライブラリーからACH2 cDNAクローンを単離し、その塩基配列の解析を行い、推定アミノ酸配列からACH2の全一次構造を初めて明らかにした。さらにデータベースを用いた検討から、この酵素が全くの新規アシルCoA水解酵素分子種であることを明らかにした。得られたcDNAクローンをもとにACH2遺伝子の構造解析を進めているが、転写調節領域の解析には至っていない。この研究成果についても論文として投稿の準備を進めている。 以上のごとく、本年度初頭に計画した研究実施項目のすべてを完了するには至らなかったが、掲げた2つの課題についてその成否の鍵を握る最も困難な工程を成し遂げた。その過程で極めて重要な知見を得た。本研究の成果は関連研究分野における今後の発展に大きく貢献するものと確信する。
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