研究概要 |
1.分子内三重鎖DNAの2つの構造異性体の動的構造変化 ポリプリン・ポリピリミジン(Pur・Pyr)配列が形成する分子内三重鎖DNAには,2つの構造異性体が存在する.三番目の鎖がPyrの3′側半分から成るH-y3とPyr鎖の5′側半分から成るH-y5である.本研究では,ケミカルプローブ法を用いて,この2つの異性体の動的構造変化を速度論的及び熱力学的に解析した.その結果,二重鎖から分子内三重鎖構造への転移及びH-y3またはH-y5への異性体間の変換に要する活性化エネルギー,さらに平衡時における熱力学的パラメーターを算出することができた.この結果から,以前に提唱した分子内三重鎖異性体の形成機構(M. Shimizu et al., J. Mol. Biol., 235,185-197,(1994))は,定量的に検証された. 2.クロマチンの構造形成に及ぼす三重鎖DNAの影響 出芽酵母のミニ染色体を用いて,様々なPur・Pyr配列をヌクレオソームの中央及びリンカーに相当する部位に挿入して,ヌクレオソーム形成に及ぼす影響をin vivoで調べた.その結果,d(G)n・d(C)nとd(A)n・d(T)nは,ヌクレオソームを破壊すること,d(GA)nはヌクレオソームのポジショニングに大きな影響を及ぼすことを明らかにした.この結果は,in vivoでの分子内三重鎖の形成が,クロマチンの機能構造の形成に関与していることを示唆している. 3.DNAの転写に及ぼす三重鎖DNAの影響 転写活性に及ぼす分子内三重鎖構造の影響を調べるために,S.cerevisiaeのCYClプロモーター上流にPur・Pyr配列をクローニングして,レポーターであるlacZ遺伝子と連結したプラスミドを構築している.第2項の結果と合わせることによって,in vivoでの分子内三重鎖構造,クロマチンの構造,転写活性の三者の関係を解析できる実験系となることが期待される.
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