研究概要 |
本研究では,塩素化エチレン化合物の毒性機構を解明するための一環として,ラット肝P450に及ぼす塩素化エチレン化合物の影響について速度論的および免疫化学的方法を用いてin vivo系で検討した. トリクロロエチレンをラットに投与すると,肝のCYP2E1,CYP3A2およびCYP4A1特異的P450依存性酵素活性は対照ラットの1.6〜2.5倍有意に誘導さけた.また,抗ラットP450抗体を用いた免疫化学的検討からもトリクロロエチレン投与により,CYP2E1,CYP3A2およびCYP4A1蛋白(いずれも常在性P450分子種)が有意に増加した.同様の検討を1,1-ジクロロエチレン,cis-1,2-ジクロロエチレンおよびtrans-1,2-ジクロロエチレンについても行ったが,トリクロエチレンで誘導されたP450分子種の変動はこれらジクロロエチレン化合物で観察されなかった.しかし,いずれのジクロロエチレン化合物もCYP2C11蛋白(常在性P450分子種)を減少させることが抗ラットP4502C11/6抗体を用いた免疫化学的実験から明らかとなり,特に1,1-ジクロロエチレン投与による減少が顕著であった.さらに,これらジクロロエチレン化合物投与群のCYP2C11存在性酵素活性は対照群のそれぞれ25〜45%であり,CYP2C11蛋白の減少を示唆する結果が得られた.また,他のP450分子種CYP1A1/2(いずれも誘導性P450分子種)はいずれの塩素化エチレン化合物によっても変動しなかった.以上の結果より,次のことが示唆され,推察された.(1)塩素数3個および2個のエチレン化合物は常在性P450分子種のみを変動させる.(2)この常在性P450は塩素数3個のトリクロロエチレンにより誘導され,塩素数2個のジクロロエチレン化合物により減少する.(3)ジクロロエチレン化合物の場合,塩素の置換位置によりCYP2C11の減少率が異なる.(4)塩素数3個および2個のエチレン化合物の毒性には常在性P450分子種が何らかの形で関与する.
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