一次知覚神経における痛覚伝達物質の一つであると考えられているサブスタンスP(SP)をマウス脊髄クモ膜下腔内に投与すると、後肢に対する種々の疼痛関連行動(licking、bitingおよびscratching等)が惹起される。一方、SPと同様に脊髄後角に存在することが知られているコレシストキニン(CCK)は、オピオイド拮抗作用および侵害刺激抑制作用といった相反する生理機能を有することが知られており、痛覚受容機構の調節要因の一つと考えられている。これらのペプチドの生理的関連性について詳細に検討を行った。 1.体性投与したCCK-8sはモルヒネよりも強力なSP誘発性疼痛関連行動減弱作用を有し、その抑制効果はCCK-B受容体作動薬であるCCK-8s、ペンタガストリンおよびCCK-4を前投与した際には発現が認められなかった。 2.脊髄クマ膜下腔内へのCCK-8s投与ではSPによる疼痛関連行動を低用量で増強し、また高用量で減弱するという相反した効果を示した。高用量投与時における効果は、ナロキソン前処理により有意な影響は受けなかった。 3.脳室内投与時には、脊髄クモ膜下腔内投与時と異なりCCK-8s投与によりSP誘発性疼痛関連行動は抑制のみが認められ、ナロキソン前処理によりその効果が有意に拮抗されたが、モルヒネに対するナロキソンのような完全な拮抗現象は観察されなかった。 4.CCK-8sの効果は、脳室内投与時および脊髄クモ膜下腔内投与時ともにモルヒネよりも協力であることが明らかとなった。 以上のことから、CCK-8sは脊髄において一次知覚神経の伝達物質であるSPの痛覚伝達機構において重要な生理的役割を担っている可能性が考えられる。また、脳室内へのCCK-8sの投与は、脊髄クモ膜下腔内投与時と同様にSPによる反応を抑制したが、その機構の一部に脳内オピオイド系が関与することが示唆された。
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