保健所において精神保健活動に従事する保健婦との事例検討を重ねた。これらの事例検討から得られた知見をさらに再検討することにあたり、住民の保健所への救助行動の特徴と、保健婦の対処の方法に焦点を当てた。その結果、以下の新たな知見を得ることができた。 まず、住民が保健所の精神活動に援助を求める際に、必ずしも自分自身の健康上、あるいは精神的な問題を持ち込むのではないこと、また、それ故、保健所が住民に処遇を求められている問題は相談者とは異なる人物に関するものであることが明らかとなった。つまり、相談者である住民は他者の精神的問題の処遇を保健所に求めていることとなる。このことは、本来セルフケアを行うべき問題を持っている人(あるいは家族)に処遇を求める動機はなく、周辺の関連する人物が相談者となることを意味する。このため精神科的問題解決の動機は多くの場合ないか、あるいは極めて希薄であるか、または、他者にあることとなる。また、他者が純粋に精神科的問題の解決を望むとは限らず、単に精神障害を持つ者に困らされているだけであるという事例も少なくなかった。すなわち、住民は第三者として保健所に精神障害を持つ者の処遇を転嫁するという形式に基づいて相談を持ち込んでこることが多いことが明らかとなった。ただし、いわゆる相談者が解決してもらいたいとする問題は、極めて多様であり、これを類型化することは本年度の枠内では行い得なかった。しかし、この類型化は保健婦の援助方法の確立において、重要な意味を持ち得ることから今後の研究課題とする必要がある。 一方保健婦は、住民から転嫁された問題の解決を行う際に、多面的な役割が要請されることが明らかとなった。つまり、住民、精神障害者、及び場合によっては病院等の関連諸機関の固有の立場を理解しつつ、これらを有機的に統合していくという援助を行っていることが明確となった。 これらの結果を今後公表していく予定である。
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