近赤外(NIR)分光法を用いて、いかなる形態の食品でも簡便に成分測定を行うためには、食品中の各成分間の相互作用について考慮し、スペクトルにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることが必要である。本年度は食品成分のうち特に大きな割合を占める水に焦点を絞り、NIR法による水の存在状態の解析を行った。 まず水分活性を細かく調整した各種食品成分のモデル系試料を作成し、スペクトル解析を行った。モデル系試料として澱粉系試料2種類とモデルタンパク質2種類を用いて水分含量の変化に対する吸収スペクトルの変化を比較した結果、どの試料についても1162nm、1400nm付近、および1900nm付近のスペクトルに特徴的な変化を示した。このうち1900nm付近の吸収波長は水分含量が増加するにつれて1925nmから低波長側へシフトし、吸収強度の変化は水の存在状態の変化に対応して3種類の曲線に回帰されることが判明した。すなわち、水分含量が約0-10%の結合水の状態では1925nm〜1920nmの範囲に、約10-30%の準結合水の状態では1920nm〜1915nmに、また30%以上の自由水の状態では1915nm〜1906nmに吸収がシフトするとともに、それぞれの状態に特有の吸光係数を示すことが明らかになった。一方1400nm付近の吸収は、水分含量が増加するとともに吸収強度が減少するが、ある一定の水分含量では逆に増加傾向をたどった。この傾向は澱粉系試料では顕著に現れたが、タンパク系試料ではわずかにしか見られないことから1400nmの吸収領域は試料のOH基に由来するものであり、水分の増加に伴って吸収強度が減少したのは、試料中のOH基の振動が弱められたために引き起こされたものであると示唆された。
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