研究概要 |
慣れていない運動や久しぶりの運動を行った後には筋肉痛が生じ,その痛みはしばらくの間持続する。筋肉痛が安静を促す危険信号だとすれば,筋肉痛が消失するまでは,痛みのある筋肉を動かすような運動は控えるべきであると考えられる。しかし,痛みがあっても運動することはあり,痛みをこらえて運動するうちに痛みが軽減されるといった経験的な事実もある。本研究では,筋肉痛がある状態でさらに運動を負荷した場合の筋肉痛の程度や,筋機能の変化について検討した。実験モデルには,最大等尺性筋力の50%に相当するダンベルを,負荷に抵抗しながら肘の屈曲位から伸展位にゆっくり降ろす上腕屈筋群のエクセントリック運動を用いた。この運動を一方の腕では10回3セットのみ行い,他方の腕では10回3セットを1日おきに3回実施した。運動に伴う,筋肉痛,筋力,関節可動域,血漿CK活性値,Bモード超音波画像の変化について両腕間での比較を行った。その結果,エクセントリック運動を1日おきに3回行った腕における各指標の変化と,1回のみ運動を行った腕での変化との間には有意な差が認められなかった。筋肉痛がある状態で運動を負荷しても新たな筋肉痛が生じないばかりか,運動後には筋肉痛の程度が顕著に軽減した。また,2回目,3回目の運動直後に筋力は1回目の運動直後と同様に低下するが,その翌日までには,2回目,3回目の運動負荷がなかった腕と同様に回復を示し,関節可動域については,運動前に比べ運動後に有意に大きくなった。また,超音波画像や血漿CK活性値においても回復過程が遅延したり,新たな損傷が生じたと考えられるような所見は見られなかった。これらのことは,筋肉痛がある状態で,その筋に対してさらに筋損傷を誘発するような運動を負荷しても,筋の回復過程には影響がないということになる。しかし,筋肉痛がある部位の運動はしてもよいということにはならず,運動の有効性や効果の側面からは,その部位の運動を敢えて行う必要性はないものと考えられた。今後,組織学的な検討を加え,なぜ,筋損傷が生じている筋にさらなる損傷誘発刺激を負荷しても損傷が生じないのか,また回復過程に影響がないのかについて明らかにしていきたい。
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