研究概要 |
本年度は退行性筋萎縮に対する効果的な防止法の策定を目的とし,筋運動とアナボリックステロイド(AS)投与が筋の退行性変化に及ぼす影響を検討した.実験には成熟したF344系雌ラットを用い,3週間の後肢懸垂を行い,後肢懸垂期間中の筋運動ならびにAS投与の効果を収縮特性,組織学的特性,生化学的特性の変化から調べた.運動は等尺性の筋力発揮を主体とするレジスタンス運動(体重の50%の重りをつけ,傾斜80度の金網の床面で維持)とし,1日30分,週6日行った.ASはスタノゾロールを用い,体重1kgあたり10mgの割合で1日1回,腰部皮下注射により投与した.3週間の後肢懸垂により,足底筋,ヒラメ筋重量は40〜50%減少した.ヒラメ筋の最大張力の低下は筋重量の低下を上回り,したがって,後肢懸垂により筋重量および筋断面積あたりの最大張力の低下がみられた.一方,足底筋では変化がみられなかった.後肢懸垂ヒラメ筋では,筋線維の部分欠損,Gomori染色で赤染されるragged red fiber, ATPase染色で酸性側,アルカリ側いずれの前処理においても失活する線維などの異常所見が観察された.後肢懸垂期間中に負荷した筋運動やAS投与は,ヒラメ筋の後肢懸垂に伴う筋線維の変性,崩壊を抑制し,最大筋力の低下を軽減した.したがって,筋線維の変性,崩壊を含む筋原線維蛋白濃度の低下が筋重量及び筋断面積あたりの最大張力の低下の原因と考えられた.ヒラメ筋に対する萎縮軽減効果はAS投与に比べ筋運動の方が顕著であった.足底筋に対しても,筋運動やAS投与は明らかな萎縮軽減効果が認められ,とくにAS投与は筋重量,最大筋力の後肢懸垂による低下をほとんど抑制した. 以上の結果から,活動制限を余儀なくされた場合の筋の退行性萎縮に対する筋運動やAS投与の抑制効果が示唆され,病床での萎縮軽減策として有用であろうと思われる.
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