研究概要 |
本研究では1)末梢循環機能の指標として脈波を利用することの妥当性を検討すること、2)脈波を用いて末梢循環機能老化速度の個人差について検討すること、3)生活環境の違いが脈波に及ぼす影響をあきらかにすること、の3点を目的とした。まず,脈波が末梢の血流動態を正確に反映しているか否か,血管の特性(弾性や抵抗)が脈波のどの部分に反映されるかについて調べた。脈波波形はドップラー血流計で測定した末梢血流プロファイルと一致することが明らかとなり,脈波から得られる情報が末梢循環を評価する生理的指標として妥当であることが示唆された。電気回路を用いたシミュレーションの結果,指尖脈波の頂上付近の波打ちの程度や最初の波の頂上に到達するまでの時間で動脈系の弾性を評価できる可能性が示唆された。これらの結果をもとに加速度脈波波系から新しい脈波指数を考案し、末梢循環機能の個人差について検討した。この指数は個人内変動が少なく個人差の検討に有効であり、従来の動脈硬化を診断する指標と関係が高かった。新しい脈波指数の年齢と有意な相関が見られ加齢に伴って大きくなるが、その偏差が加齢に伴って著しく大きくなった。すなわち、末梢循環機能はその老化速度に大きな個人差があることが示された。さらに、産業構造の変化が緩慢で生活循環の変化が少なかったある漁村と大都市の生活者の脈波指数を比較したところ、全ての年齢層を通じて漁村生活者の脈波指数は都市生活者よりも有意に小さかった。この結果は、長期に渡る生活環境の違いが末梢循環機能によく影響を及ぼすことを示唆している。
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